【特集】おイモの熟成は洞窟やトンネルで…地域資源生かす動き広がる

息の長いサツマイモブームが続く中、収穫後のおイモの熟成場所に地域の資源を生かしながら、おいしいおイモを提供しようとする試みが広がっている。サツマイモを熟成させることは、おイモに含まれるでん粉の糖化を促し、甘さを引き出す上では重要な工程とされる。廃線となった鉄道トンネルや、使われなくなった洞窟など、地域に眠るスポットに着目し、新たな熟成場所として活用することでブランディングや地域振興にもつなげている。【さつまいもニュースONLINE編集部】

■四半世紀前に掘られた洞窟を活用

長野県内でサツマイモのスイーツ専門店「おいも日和」を展開する「ねんりん」(長野県松本市)は昨秋から、収穫後のサツマイモの熟成場所として、同県内の坂城町にある洞窟を本格活用し始めた。

取り組みは、その名も「洞窟熟成」だ。

同社によると、洞窟は約25年ほど前に工事用として掘られたものといい、地元自治体の紹介を介してその存在にたどりついたという。

洞窟は、全長800メートルで、温度が約16度、湿度が約90%という。自然の山を掘り進みつくられたため、外気の影響を全く受けず、おイモの保管に適しているという。

5か月間ほどじっくり洞窟の中で熟成させることで、「人工的な熟成庫では実現できない滑らかな焼き芋に仕上がる」と同社は説明する。

3月に「洞窟熟成」を冠した、「洞窟熟成みつ芋」として発売。売り場での提案を続ける。

■異業種でスクラムを組む動きも

石川県内では、2005年3月に廃線となった「のと鉄道」(同県穴水町)の能登線トンネルを活用する動きが出ている。

いずれも同県内の「志賀農業協同組合」(志賀町)と酒造会社の「宗玄酒造」(珠洲市)、ラーメンチェーンの「ハチバン」(金沢市)が異業種でスクラムを組んだ取り組み。

トンネルは、宗玄酒造が15年ほど前にのと鉄道から取得したもので、日本酒を熟成させる貯蔵庫として既に利用していたもので、サツマイモの貯蔵にも活用を広げた格好だ。

廃線となったトンネルを活用した貯蔵場所

おイモは、同組合の生産者らが丹精した「紅はるか」を使用。2021年に実験した際には、一定期間の熟成を経て、糖度が22度から36度まで上昇したことを確認できたという。

能登線が走っていた当時、一つ一つのトンネルをいろは順で呼んでいたことにちなみ、貯蔵したおイモの名前を「いろは芋」と命名。

ハチバンが運営するキッチンカーなどでこの春、限定販売をスタートさせている。


■おイモの背景や物語に"深み"

息の長いサツマイモブームが続く中、安定した供給や品質の向上に向けて、適切な貯蔵場所の確保は大きなカギを握るといえる。

全国的には、近代的な貯蔵施設や設備を整える動きが広がっており、安全安心でおいしいサツマイモの供給に多くの関係者が汗を流している。

その中で、地域で活用されなくなったり、眠ったままのの資源を有効活用する取り組みもまた一つの地域発のユニークな動きといえる。

地域の資源に光を当て、熟成場所として活用する取り組みは、消費者にその地域を想像させ、おイモが届くまでの背景や物語に深みを加える側面もあるはずだ。

取り組みそのものが、消費者が舌で味わうだけではない、おイモの新たな「味」の一つにもなっていくのではないだろうか。